
戦後日本の児童問題を研究する際には不可欠の史料的価値を有している「幻の雑誌」を復刻!
日本子どもを守る会児童問題研究所 編著
・第1巻(2025年2月刊)定価15,400円(本体14,000円+税)
収録内容:解題・総目次・執筆者索引、機関誌『児童問題研究』1962~65年刊行分(№1~4・創刊号~4号)
体裁:B5判・並製・430頁・ISBN978-4-909942-35-7
・第2巻(2025年6月刊)定価15,400円(本体14,000円+税)
収録内容:『児童問題研究』1966~74年刊行分(第5~ 10号)
体裁:B5判・並製・480頁・ISBN978-4-909942-36-4
・第3巻(2025年10月刊)定価15,400円(本体14,000円+税)
収録内容:『児童問題研究』1977~79年刊行分(第11~14号)
体裁:A5判・並製・630頁・ISBN978-4-909942-37-1
・第4巻(2026年2月刊)定価15,400円(本体14,000円+税)
収録内容:『児童問題研究』1980~90年刊行分(第15・特別号・16~18号)『子ども権利読本』(1989年)
体裁:A5判・並製・550頁・ISBN978-4-909942-38-8
「刊行にあたって」
増山 均(日本子どもを守る会会長・早稲田大学名誉教授)
『児童問題研究』は、日本子どもを守る会の創立10周年を記念し、かつ1961年4月に逝去した長田新初代会長を顕彰する事業として設立された児童問題研究所の研究紀要として1962年11月に№1が発刊されました。B5判の簡易白表紙の№1巻頭に掲げられた「児童問題研究所の創設」の中で羽仁説子(第二代会長)は、「現代子どもかたぎ(気質)」ということばがマスコミでもてはやされ子どもの把握が現象的・ムード的になっているなかで、科学的な子ども研究の必要性を呼びかけました。
「児童問題研究」№1に続いて、翌1963年4月に№2が、5月に№3が、9月に№4が立て続けに発行されましたが、継続的な発行体制が整わなかったために、中断します。
その後1965年2月に、『児童問題研究』誌は改めて正式な創刊号の発行に至ります。
日本子どもを守る会は、高度経済成長期の激変する社会の中で、育ちゆく子どもたちの姿をリアルに捉えるために、1964年から『子ども白書』の発行を開始しましたが、児童問題研究誌は、現代社会の問題構造と子どもの生活・発達について、深く分析する視点と課題を掲げ、研究と運動の統一をめざして総合的な児童問題研究を追究していきます。編集同人として、羽仁説子・古川原・菅忠道・鷲谷善教・太田卓・伊東三郎・加古里子・矢島せい子・一番ケ瀬康子の諸氏らが名前を連ねています。これらの人々を中心にして、日本子どもを守る会内外の多くの方々の協力を得て取り組んだ研究活動の成果が『児童問題研究』誌に掲載されていきました。
同誌はその後1990年3月の第18号まで、かならずしも定期的ではありませんでしたが、プレ№1〜4、特別号(1980年11月)も含めて全23冊発行されました。発行部数が些少であったこともあり、日本子どもを守る会の書庫も含めて、全巻が揃った資料室や図書館は全国どこにも存在せず、今日では入手はもちろんのこと、閲覧も困難な「幻の雑誌」になっていました。
2022年5月、日本子どもを守る会は創立70周年にあたって、その記念事業の1つとして、児童問題研究所の再興を掲げました。再建児童問題研究所の仕事として、2023年5月に復刊『児童問題研究』第一号(通巻一九号)を出版し、旧巻『児童問題研究』のバックナンバー全巻の蒐集をめざし、二年をかけてその全容をつかむことができました。
このたび「明誠書林」によって旧『児童問題研究』の全てが復刻版(全4巻)として出版されることになり喜んでいます。旧『児童問題研究』誌は執筆者も多彩であり、戦後日本の児童問題を研究する際には不可欠の史料的価値を有しているといえますので、ぜひご一読くださるようお願いいたします。
【推薦文】
「『児童問題研究』復刻版の刊行に寄せて」
堀尾輝久(日本子どもを守る会理事・東京大学名誉教授)
子どもを守る会の創立10周年を機に設立された児童問題研究所はその研究紀要として1962年に刊行。中途休刊を含み、1990年18号まで、続けられてきた。この間子どもを守る会は『子ども白書』(1964〜)に取り組み、民間団体と協力して、高度経済成長政策以降の子どもの生活実態、状況を報告し続けてきた。研究所の紀要は白書を踏まえての子ども問題の歴史社会的構造分析であり同時に子どもの人間関係の変化、さらにその内面状況から、子ども問題を捉えようとするユニークで貴重な、総合的視点からの子ども研究シリーズであった。国際的には、子どもの権利条約が1989年に成立、日本ではその批准を求める運動とも重なり、執筆者も多彩であった。
当時私は1960年の『教育』5月号に「児童憲章とその問題点」を書き、子どもの問題状況、貧困や、親子心中や暴力問題の実状をフォローし、児童憲章を日本の子どもの権利宣言として捉える必要を提起した(国連での「子どもの権利宣言」は1959)。そして国際児童年のパリ集会(1979)、日本での子どもの条約批准運動にも参加し、子どもの権利思想を深めるための論文や研究所主催のシンポジウムでの発言を児童問題研究誌に掲載して頂いた。(『人権としての教育』岩波現代文庫2019参照)。
復刻版の刊行に当たり、改めてこの研究誌の歴史的意味と今日的意義を学ぶとともに、新研究誌が日本の「子どもの発達と権利」研究の土台になることを願っている。
【推薦文】
「子どもに科学と権利の光を当てる」
河合隆平(東京都立大学准教授)
近代以降の日本では、児童研究や児童学をはじめ、「児童」を対象と方法に据えた実践・研究・運動がいくつも生まれた。「児童」の名の下に社会の知や実践を総合して、社会の危機や混迷を読み解き、未来を展望しようとの試みには、じつに多様な人々が関わっていた。
このたび復刻された『児童問題研究』も、高度経済成長という社会と文化の激動を受けとめながら、科学的な子ども研究を打ち立てようとの野心に満ち溢れての創刊であった。それは「幻の雑誌」といわれるほどに、発行部数も限られた小さな雑誌であった。
けれども、本誌を繰れば、同時代の人々が子どもの権利をめぐる国際動向をどのように受けとり、日本社会に生きる子どもの発達と生活をいかにつかもうとしていたのかを知ることができる。小さな雑誌であるがゆえに、子どもの権利をめぐる歴史のうねりと、時代と切り結んだ子ども研究の息吹が鮮やかに刻まれることになった。本誌の趨勢はまた、子どもの権利をめぐる研究運動の苦悩や困難をも伝える。「こども」を掲げる制度や政策が打ち出される今日、本誌を読み解くことで「児童問題研究」の射程を再検証し、戦後日本の子どもをめぐる歴史的位相と同時代史を描き出してみたい。そして、本誌に登場する人々の声を聴きとりながら、子どもの権利保障のために、私たちは何を語り、どのように手を結んでいくのかを考えたい。
ぜひ本資料を手にして、その史料的、実践的な価値を確かめながら、子どもに科学と権利の光を当てた研究運動の歴史を紡いてほしい。