荻野富士夫 著
定価:9,790円(本体8,900円+税)
2022年10月刊行
A5判・上製・480ページ
ISBN978-4-909942-22-7 C3021
本書は、戦前公教育を貫通していた「教育勅語」に発する「正統的イデオロギー」が、比較的その呪縛を免れていた高校・大学などにおいて、どのように浸透し席巻していくのかを丁寧かつ詳細に追っていき、とりわけ1930 年代後半から「教学錬成」の概念が当時の教育全般を広く深く覆っていくことに着目した大著である。
近年、日本学術会議の任免拒否や科学技術・イノベーション法(科学技術基本法を改正し、新たに「人文・社会科学」分野が適用対象に追加)等、国家・政府が本格的に「思想統制」、そして「思想動員」の次元に乗り出そうとしている。
この度小社では長らく入手困難であった初版(校倉書房、2007 年)を新装版として復刊し、戦前と同じ道を辿らないよう本書が「活用」されることを願うものである。
荻野 富士夫(おぎの ふじお):小樽商科大学名誉教授。主な著書に『治安維持法の歴史』Ⅰ、Ⅲ、Ⅳ(六花出版、2021-22 年)、『よみがえる戦時体制』(集英社新書、2018 年)、『特高警察』(岩波新書、2012 年)等。
〈目次〉
Ⅰ 思想統制の始動―社会科学研究の抑圧(1928年以前)
1「思想善導」の前史 2 高校社会科学研究会の抑圧―岡田良平文相の登場 3 社会科学運動の全面的禁圧へ―京都学連事件とその後
Ⅱ 思想統制体制の確立―学生課から学生部へ(1928年―1929年)
一 三・一五事件と学生課の設置
1 社研解散と「左傾教授」追放 2 為政者層の強要―枢密院・議会 3 学生課の新設 4 抑圧取締の強行と空回り
二 四・一六事件と学生部への拡充
1 学生部への拡充 2 思想善導の始動
Ⅲ 思想統制体制の展開―学生部(1929年―1934年)
一 学生思想運動との全面的対決
1 学連解体後の抑圧取締 2 学生思想問題調査委員会 3 思想善導の本格化 4 ストライキ・学内騒擾の沈静化へ 5 中学校・小学校教員・青少年団体への抑圧始動
二 学生思想運動の逼塞化
1 学生部=「教育警察」の本領 2 学生思想運動の封じ込めへ 3「転向」学生の処遇 4 右翼学生運動への対応
三 「思想対策」の確立へ
1 国民精神文化研究所の設置 2 長野県二・四教員赤化事件 3 滝川事件 4 思想対策協議委員
Ⅳ 思想動員体制への転換―思想局(1934年―1937年)
一 「思想上ノ指導監督」施設としての思想局
1 文部省への逆風 2 思想局の創設
二 思想局の対策と施設
1 学生思想運動への警戒の持続 2 国民精神文化研究所の停滞 3 日本文化協会の創設 4 地方思想問題研究会と国民精神文化講習所の設置
三 「国体明徴」と「教学刷新」
1「天皇機関説」問題への対応 2 教学刷新評議会の設置と答申 3 日本諸学振興委員会の創設 4『国体の本義』の編纂
Ⅴ 「教学錬成」体制への移行―教学局〈外局〉(1937年―1941年)
一 「教学刷新ノ中央機関」としての教学局
1 教学局の創設 2 教学局の不振 3 文部行政の迷走
二 教学局の対策と施設
1「教学局行政の積極化」 2 国民精神総動員運動と教学局 3 国民精神文化研究所の拡充 4 道府県思想対策研究会の設置 5 東京の錬成教育 6 日本文化中央連盟の創設 7『臣民の道』の編纂
三 大学の思想統制・動員
1 学生思想運動の剔抉 2 修練体制の確立と学校軍事教練の教化 3 興亜学生勤労報国隊 4「国体学」「日本学」講座 5 河合栄治郎事件と大学粛学
四 「東亜教育」の推進へ
1「東亜教育」への着目 2「東亜教育基本理念」 3 華北占領地域における文教工作 4 朝鮮・台湾における「皇民錬成」
Ⅵ 「皇国民」錬成教育の究極化―教学局〈内局〉(1942年―1945年)
一 「皇国民」錬成教育の完成へ
1「大東亜建設ニ処スル文教政策」 2 戦時下学生思想指導の強化 3 戦時下「国民思想指導」の徹底 4 国民錬成所の創立と国民精神文化研究所の収束 5 教学局の内局移行 6「東亜教育」の収束
二 「皇国民」錬成教育の末期段階
1「文教維新」 2思想対策の最終段階 3教学錬成所の創立 4「皇国民」錬成教育の崩壊
Ⅶ 文部省治安機能の復活―戦後教育への連続と断絶(1945年以後)
一 「教学錬成」体制の「解体」
1「国体護持」教育への固執 2 GHQ教育指令への消極的対応 3「教育に於ける民主主義」の実施 4 学園民主化の抑制へ
二 新たな教育統制へ
1 学生運動抑圧の再開 2「学生補導体制」の確立 3 旧教学局官僚の延命と復活