須田将司 著

定価:4,950円(本体4,500円+税)

2021年10月刊行
A5判・上製・450ページ
ISBN978-4-909942-17-3 C3037

 本書は、1930 ~ 1950 年代―昭和恐慌から戦時、そして占領下から講和・独立後の再編まで―という激動の「昭和前期」に、「報徳教育」に活路を見出そうとした教員群像の姿を照らし出そうとするものである。それは、教育史実を掘り起こすのみならず、時期や立場によって「自力更生」「錬成」「民主主義」など振れ幅のある理論・実践が生み出された点に、「生きる力」「愛国心」「主体」「対話」などに揺れる2000 年代以降の教育改革との重なりを見出そうとする試みでもある。

【著者紹介】
須田 将司(すだ まさし):東洋大学文学部教授。単著に『昭和前期地域教育の再編と教員―「常会」の形成と展開―』(東北大学出版会)、共著に『近代日本教育会史研究』(新装版、明誠書林)、『近・現代日本教育会史研究』(不二出版)他。

【目次】
序章 「報徳教育」という言葉、その多義性
 第一節 課題意識
 第二節 危機や困難を背景とした「主体」や「対話」の強調
 第三節 昭和前期の報徳運動と報徳教育をめぐる研究状況
 第四節 本書の視点・構成
第Ⅰ部 「新興報徳運動」の展開と報徳教育――内務官僚・遠山信一郎に着目して
第1章 「新興報徳運動」のはじまり
 第一節 遠山信一郎の模索
 第二節 土方村の事業
 第三節 佐々井信太郎の報徳理論と長期講習会の開始
第2章 神奈川県における報徳教育の創出
 第一節 足柄上郡教育会二宮先生研究部の組織化と報徳教育論の形成
 第二節 『報徳研究録』にみる実践研究の展開
 第三節 神奈川県内における報徳教育の展開
第3章 富山県における報徳教育の創出――学校報徳社・児童常会の端緒
 第一節 富山県における「新興報徳運動」の開始と報徳教育の勃興
 第二節 指定教化村下の学校報徳社・児童常会
 第三節 学校報徳社・児童常会の問い直しと錬成論的展開
第4章 埼玉県における「新興報徳運動」と報徳教育
 第一節 埼玉県における「新興報徳運動」のはじまり
 第二節 一九三六年度以降の「新興報徳運動」の変転
 第三節 報徳教育の姿
第5章 北海道における「新興報徳運動」と報徳教育
 第一節 「新興報徳運動」の萌芽期
 第二節 遠山信一郎の着任後の展開
 第三節 遠山の転任とその後の展開
第Ⅱ部 「新興報徳運動」と報徳教育の伝播
第6章 栃木県における「新興報徳運動」と報徳教育
 第一節 昭和恐慌後の報徳仕法への関心
 第二節 一九三五~一九三六年における「新興報徳運動」の勃興
 第三節 栃木県における報徳教育の理論と実践
第7章 島根県における「新興報徳運動」と報徳教育
 第一節 酒井栄吉学務部長の働きかけ
 第二節 教育視察と報徳教育情報の伝播
 第三節 島根県内における報徳教育の実践化
第8章 報徳教育の錬成論的な形成と展開
 第一節 加藤仁平による「報徳教育」論の提唱
 第二節 「報徳経済学が組織される頃迄には、報徳教育学を組織立てたい」
 第三節 『新興報徳教育』から『皇道報徳教育』への転換
第9章 戦時下に広がる「学校常会」論
 第一節 国民訓育連盟による「学校常会」論と実践研究
 第二節 日本青年教師団による「学校常会」論と実践研究
 第三節 少年団常会の一般化
第10章 神奈川県尊徳会の結成と総力戦体制下の報徳教育
 第一節 神奈川県尊徳会の結成と県指定研究
 第二節 一九四〇年における報徳教育の変容―福沢小学校の事例―
 第三節 「反省録」と「躾の調」による日常生活指導の徹底
第Ⅲ部 戦後復興期における報徳教育
第11章 戦後福沢国民学校における報徳教育の再評価
 第一節 戦後福沢国民学校の実践構築―〔空白の一九四六年度〕に起こったこと―
 第二節 報徳教育の再評価
 第三節 「農村地域社会学校」に継承された「母子常会」
第12章 『民主報徳』にみる戦後の報徳教育
 第一節 敗戦直後の加藤仁平
 第二節 報徳教育家の再結集
 第三節 田中茂一の報徳教育論
 第四節 『民主報徳』誌上にみる報徳教育
結章 「昭和前期における報徳教育」とは何だったのか
 一 昭和戦前における錬成論的な深化と教育学的な深化
 二 報徳教育からの「学校常会」の抽出と一般化
 三 昭和戦後の報徳教育
 四 「長所美点」をめぐる「対話」の教育史
あとがき
索引